どうなる? 産休・育休中の社会保険料と税金

 

 今や、出産にともない仕事を辞めるのではなく、産前産後休業(産休)、育児休業(育休)を取得し、その後、会社に復帰する人も増えてきました。では、その休業する期間の社会保険料や税金はどうなるのでしょうか。

 ここでは、産休、育休中の社会保険料と所得税や住民税についてご説明します。出産、育児と出費もかさむ時期です。必要な手続きを行い、不要な出費を抑えましょう。

どうなる?産休・育休中の社会保険料

 会社などで、加入する社会保険料の中には、健康保険(介護保険を含む)、厚生年金保険、雇用保険があります。また、自営業の方などは、国民健康保険・国民年金に加入しています。

 これらの社会保険料は、産休・育休中、どのように変わるのでしょうか。

 ここでは、社会保険の加入の形式により、次の①~③に分けてご説明します。①ご自身で社会保険に加入している~被保険者の場合~、②家族の扶養に入られている~被扶養者の場合~、③会社の社会保険ではなく、~国民健康保険・国民年金に加入している方の場合~ の3者について、それぞれ説明いたします。

産休・育休中の社会保険料 ~被保険者の場合~ 

 被保険者、つまり、会社の社会保険にご自身で加入し、ご自身で保険料を支払っているかたについてご説明します。

 まず、正規・非正規にかかわらず、1年以上雇用されている方、引き続き1年以上雇用される予定の方は産休、育休が取得できます。

(厚生労働省「あなたも取れる!

 http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/dl/31.pdf

 産休・育休の手続きは、原則事業主が行います。事業主は日本年金機構へ、産休取得期間中に「産前産後休業取得者申出書」、育児休業取得中に「育児休業等取得者申出書」を提出します。この手続きにより、事業主、被保険者ともに休業期間中1)産休、育休中の保険料免除期間は、休業開始月から、終了予定日の翌日の前月となります。育児休業の終了日が、月の末日の場合は育児休業終了月までです。の健康保険料と厚生年金保険料の支払が免除されます。さらに、免除された厚生年金保険料は、年金の計算をする際、保険料を納めた期間として扱われます。よって、免除された分、将来支払われる年金額が下がる、ということはありません。2)年金機構:産前産後休業を取得したときの手続きhttp://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo-kankei/menjo/20140509-01.html,日本年金機構:育児休業を取得したときの手続きhttp://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo-kankei/menjo/20140327-05.html,日本年金機構:産前産後休業保険料免除制度http://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo-kankei/menjo/20140327-04.html,日本年金機構:育児休業保険料免除制度http://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo-kankei/menjo/20140327-06.html

 では、雇用保険料はどうなるのでしょう。雇用保険料は、給与の額に定められた料率をかけます。よって、休業中、給与が発生しない場合、雇用保険料も発生しません。

産休・育休中の社会保険料 ~被扶養者の場合~

 パート、アルバイトの方など、原則年収が130万円未満の方は、家族の社会保険の扶養に入ることができます。正規社員以外の方で家族の扶養に入っている方も、産休、育休は取得できます。但し、「育児休業給付金」はご自身で社会保険料を納めている人に限られます。

  では、産休・育休の期間の社会保険料はどうなるのでしょうか。

社会保険を家族の扶養に入られている方は、産休・育休中も継続して、家族の扶養のままでいられます。よって、産休・育休中の社会保険、社会保険料に変更はありません。

 産休・育休中の社会保険料 ~国民健康保険、国民年金に加入の方の場合~

 会社の社会保険に加入していない方、個人事業主の方などは、国民健康保険、国民年金に加入しています。国民健康保険、国民年金の方は、産休、育休中の社会保険料免除制度がありません。

 よって、産休、育休中も国民健康保険料、国民年金保険料を納める必要があります。経済的に保険料の支払いが難しい場合、国民年金に関しては「保険料免除」「納付猶予」制度の活用ができます。

(日本年金機構-保険料免除・納付猶予

http://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/menjo/20150428.html

 ただし、納めない分将来の年金額の減額につながります。年金は、納付期限の10年以内であれば、「追納」をすることができます。3年以降の追納には利息が付きますので、お金に余裕が出てきましたら早めに納めておくことをお勧めします。

産休・育休中の社会保険料 まとめ

産前産後休業、育児休業中の社会保険料は、下の図のようになります。

 
  支払いの有無
社会保険の
被保険者
被扶養者 国民年金
国民健康保険加入の方 
健康保険料 なし なし
(扶養のまま)
厚生年金保険料 なし なし
(扶養のまま)
雇用保険料 給与による 給与による 給与による
国民健康保険料 あり
国民年金保険料 あり

 ご自身で社会保険に加入されている被保険者の方は、事業主の手続きにより、事業主、ご自身ともに、社会保険料が免除されます。また、家族の扶養に入られている方は扶養のまま、国民健康保険・国民年金に加入されている方は、継続して保険料の納付が必要となります。

 妊娠、出産と何かと変化も多く心配ごとが増える時期です。休業に入る前は、一つずつ情報収集をし、引継、手続き等の期間も考慮し、妊娠の事実と産休、育休を取得したい旨を早めに会社につたえておきましょう。

産休・育休中の税金 ~所得税と住民税を安くする~

 次に、産休・育休中に税負担が軽減される方の多い所得税、住民税についてご説明します。

 いくつかの条件に当てはまる方は、社会保険だけでなく、所得税、住民税の負担も軽減されます。どのような条件で、所得税、住民税が軽減されるのか確認していきます。

産休・育休中の所得税

 所得税とは、その年の1月~12月までの所得(給与などから控除額を差し引いたもの)に課される税金です。

 産休、育休中の給与と混同しやすいのが、各種、給付金です。妊娠から産休、育休の時期に関係する給付金は、主に4つあります。産休前に体調がすぐれず4日以上休みが続いた場合に申請・支給される「傷病手当金」、健康保険から支給される「出産一時金」、ご自身が社会保険に加入している被保険者の方に健康保険から支給される「出産手当金」、雇用保険から支給される「育児休業給付金」です。「傷病手当金」「出産手当金」「育児休業給付金」は、働けない期間の収入を保障するために給与のおよそ67パーセントに相当する額が支給されます。しかし、これらの給付金は‘給与’とは別で、非課税、つまり、課税される所得ではありません。

 産休、育休中は、お休みをすることはできますが、その期間に、給与が支払われる会社は、多くありません。給与が発生しない場合、給与にかかる所得税もありません

 もう一つ、確認しておきたいことは、その年、1月から12月までの給与の合計金額です。ほとんどの方は、産休、育休が1年の途中で始まります。産休、育休のある年に支払われた給与の合計金額を確認してください。その額が103万円以下であれば、年末調整や確定申告によりその年に徴収された所得税が還付されます。

(『確定申告』 行うと税金が戻る人、行う必要のある人。

https://asagi-tax.com/setsuzeinoki/a-final-income-tax-return-and-tax-refund-1093

 給与の合計金額の確認の仕方は、給与明細の場合は、基本給に時間外手当、役職手当など各種手当を含めた「総支給額」から「通勤手当」を除いた額です。

(初めてでもよくわかる!初心者のための給与明細 https://asagi-tax.com/setsuzeinoki/payslip-425

 また、年収が103万円以下の方はご家族の扶養として認められ38万円の所得控除が受けられます。3)H30年1月より配偶者控除対象の範囲が夫の年収が1,220万円以下の方に制限され、本人の年収に応じて控除される金額も変わります。 ご家族が、サラリーマンなどの給与所得者である場合は年末調整で、その他の場合は確定申告により所得税の負担が軽減されます。年末調整、確定申告時に配偶者控除4)夫の年収が1,220万円以下であれば、本人の年収が103万円超え141万円未満の場合、配偶者特別控除の適用対象となります。ただし、平成30年からは、年収が201万円以下の方まで適用要件が緩和される一方で、夫の年収に応じて控除金額が少なくなる仕組みとなります。、扶養控除の申告も忘れずに行ってください。

産休・育休中の住民税

 住民税は、前年の所得に対して課税されます。そのため、休業中でも、前年に所得がある場合は住民税を支払う必要があります。ただし、3-1.産休・育休中の所得税でご説明しましたように、休業期間で給与が発生していない、または、少ない場合、課税される所得が少なくなります。休業する年の年末調整や確定申告により、翌年の住民税も軽減されます。

 また、休業中の住民税の支払方ですが、給与から住民税が引かれていた方は、あらかじめ会社に確認をしておきましょう。会社に一括に預ける、振り込む、または、納付書が役所から自宅に届く普通徴収に納付方法を変更する等、それぞれの会社で手続きが異なります。

還付申告

 年末調整や確定申告など、扶養の手続きをしなかった!という方もいるでしょう。その方は、翌年の1月1日から5年間、還付の申告ができます。産休、育休は総じて1年~1年半とされていますが、保育園への入園待ちにより2年を超えてお休みする方もいます。2年分の扶養申告により還付される税額は、少なくありません。

 お近くの税理士や、税務署に、必要書類、手続きを確認し、早めに還付申告を行いましょう。

産休・育休中の税金対策 まとめ

 妊娠・出産時の「出産手当金」や、「育児休業給付金」は給与ではありません。給付金以外の所得が、給与のみで、その年の年収が103万円以下である場合、所得税はご家族の方の扶養と認められます。5)H30年1月より配偶者控除対象の範囲が夫の年収が1,220万円以下の方に制限され、本人の年収に応じて控除される金額も変わります。

 扶養申告をすることで、ご家族の方の所得税が軽減されます。その額は、ご家族の方が年収400万円ほどであれば約76,000円、年収800万円であれば約87,000円と決して小さな額ではありません。また、所得が控除されるということは、それに伴いご家族の方の住民税や社会保険料も安くなることもあります。

 申告を忘れてしまったという方は、ぜひ、還付申告を行いましょう。

最後に

 今や育児休業も女性に限らず、男性も取得することができるようになりました。また、パパママ育休プラス制度により、両親ともに休業し、育児に専念することもできるようになりました。

 生活の変化の大きいこの時期は、何かとお金がかかります。より、安心して育児に励むことができるよう、社会保険の免除制度や、所得税、住民税の扶養申告、還付申告と、ぜひ利用してください。ご自身で初めて還付申告をする場合は、慣れないことも多いかと思います。お近くの税理士にご相談ください。

 

<参考資料>

(年金機構:産前産後休業を取得したときの手続き

http://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo-kankei/menjo/20140509-01.html

(日本年金機構:育児休業を取得したときの手続き

http://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo-kankei/menjo/20140327-05.html

(日本年金機構:産前産後休業保険料免除制度

http://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo-kankei/menjo/20140327-04.html

(日本年金機構:育児休業保険料免除制度

http://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo-kankei/menjo/20140327-06.html

(全国健康保険協会 病気やケガで会社を休んだとき

https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat310/sb3040/r139

 

脚注   [ + ]

1. 産休、育休中の保険料免除期間は、休業開始月から、終了予定日の翌日の前月となります。育児休業の終了日が、月の末日の場合は育児休業終了月までです。
2. 年金機構:産前産後休業を取得したときの手続きhttp://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo-kankei/menjo/20140509-01.html,日本年金機構:育児休業を取得したときの手続きhttp://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo-kankei/menjo/20140327-05.html,日本年金機構:産前産後休業保険料免除制度http://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo-kankei/menjo/20140327-04.html,日本年金機構:育児休業保険料免除制度http://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo-kankei/menjo/20140327-06.html
3, 5. H30年1月より配偶者控除対象の範囲が夫の年収が1,220万円以下の方に制限され、本人の年収に応じて控除される金額も変わります。
4. 夫の年収が1,220万円以下であれば、本人の年収が103万円超え141万円未満の場合、配偶者特別控除の適用対象となります。ただし、平成30年からは、年収が201万円以下の方まで適用要件が緩和される一方で、夫の年収に応じて控除金額が少なくなる仕組みとなります。

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